島と、鉄と、珈琲と。
八丈島で、コンテナのカフェをひらくという生き方
東京から南へ、およそ290キロ。黒潮に抱かれた火山島、八丈島。そこに一つ、錆びた鉄の箱を置いて、珈琲を淹れる。それは、小さなカフェのはじまりであり、一人の人間の「暮らしを変える」決意のしるし。
「海のそばの、小さな場所があればいい」
たくさんのものはいらなかった。高いビルも、満員電車も、目まぐるしい日々も。ただ、潮の匂いのする風と、朝一番の光と、挽きたての珈琲の香り。それさえあれば、自分はちゃんと、生きていける気がした。コンテナは、そんな思いを受け止めてくれる器だった。20フィートコンテナを手に入れて、八丈島へと運び入れる。台風にも耐えるしっかりとした構造、断熱と開口部の工夫、手をかければ、暮らしと仕事を支える空間になる。
なぜ、カフェなのか?
一杯の珈琲には、不思議な力がある。知らない人と人を、静かに近づける力。都会の喧騒を、ふっと忘れさせてくれる力。そして、島という時間の中に、ちょうどいい間(ま)をつくる力。八丈島の朝に、夜に、雨に、光に。珈琲はよく似合う。それを知っているから、ここにカフェを開こうと思った。
「特別な観光地」ではなく、「ふつうの居場所」として
派手な内装も、凝ったメニューも、いらない。海から帰ってきた地元の人が、ふらりと寄れる。たまたま旅に来た人が、ちょっと立ち止まれる。そんな“静かな第三の場所”を、目指している。店の名前は、たとえば「Shima no Tetsu(島の鉄)」とか。無骨でいて、温かい。
そんな佇まいが、この島にも、自分にも、ちょうどいい。
コンテナのカフェから、世界は見えるか?
狭い場所に腰を落ち着け、島の空と風を感じながら、お湯を沸かし、豆を挽く。その一つひとつが、かけがえのないz間になる。何もかもを所有しなくていい。小さな建物、小さなメニュー、小さな稼ぎ。それでも、この八丈島の風景とともに、暮らしを自分で選び続ける。それがきっと、何より自由な生き方だと思う。
海の向こうに背中を預けて。鉄の箱の中で、今日も一杯、珈琲を淹れる。